2013年9月19日木曜日

モンゴルから風力を、ソフトバンク孫正義社長の壮大な野望

コダマの核心
 
2013年9月17日 11:22
 
<モンゴルの風力発電を日本で使う>

 ソフトバンクの孫正義社長の壮大な夢が動き出した。携帯電話の世界制覇に向けた野望の前に、再生可能エネルギーへの情熱は霞んでしまったかに見えたが、そうではなかった。

 朝日新聞(9月11日付朝刊)が「電力の風、モンゴルから」とのタイトルで、<乾いた風が、見渡す限りの高原を吹き抜ける。東京から約3,000km離れたモンゴル南部のゴビ砂漠。この風をとらえ、日本へ電気として送ろうという壮大な構想が、動き始めた>と報じた。

 東京電力福島第一原発事故のあと、ソフトバンクの孫正義社長が打ち出した「アジアスーパークリッド」構想だ。

 ジンギスカンが馬を走らせたモンゴル砂漠の片田舎のサルクヒトウル。首都ウランバートルから南に70km離れたこの地域は「風の山」と呼ばれる1年中激 しい風が吹き荒れる所だ。この荒涼とした不毛な大地に風力発電を設置。ほとんど無限な風を電気に変えて、中国・韓国・日本まで引いてきて使う。これが「ア ジアスーパークリッド」構想。グリッドは送電網の意味である。

<孫正義のエネルギー革命>


 孫正義社長は2011年8月に「再生エネルギー特別措置法」が成立したのをうけて、自然エネルギー財団を設立、自ら会長に就いた。自然エネルギーの普及を推進すべく、国内外と連携した活動を行なう公益財団法人だ。

 自然エネルギー推進のために提唱したのが「アジアスーパークリッド(高圧直流送電網)」構想である。孫社長は自著『孫正義のエネルギー革命』(PHPビジネス新書)でこう書いた。

 <アジアの国々をケーブルでつなぎ、自然エネルギーで発電した電力をやりとりするというもので、これが実現すれば自然エネルギーの弱点と言われる「コストが高い」「大量に電力を供給できない」「不安定である」という問題は、すべて解決します。

 たとえばモンゴルのゴビ砂漠では1年を通して素晴らしい風が吹き、太陽が照っています。この風力と太陽光を使った電力の潜在量は2TWにのぼり、今日の世界的な電力需要の3分の2に匹敵する量です。

 アジアだけなら、これだけで全体をカバーすることも可能なパワーです。そして、モンゴルと日本をスーパークリッドでつなげば、日本の電力問題はいっきに解決します>

<モンゴルで遊休地の賃借権を取得>

 孫社長が「アジアスーパークリッド」構想の実現に向けて第一歩を踏み出したのは12年4月である。ソフトバンクは、モンゴルの投資会社ニューコムグルー プ、韓国電力公社の3社の合弁で、探査会社「クリーン・エナジー・アジア」を設立した。ゴビ砂漠で風力発電の候補地を選定、事業化の可能性を調査する会社 である。

 それに先立つ3月10日、東京のお台場で再生エネルギーがテーマの「Revision 2012」のセミナーが開かれた。孫社長は、ゴビの砂漠をはじめ中国の北京・上海、韓国のソウル、そして日本の東京を青い線でつないだ図面の前で、「アジ アスーパークリッド」構想を力説した。

 それから1年半。合弁会社が<ゴビ砂漠で、東京都の面積をしのぐ約22万haの遊休地の賃借権を政府から取得した>(前出の朝日新聞)。構想が動き出したのだ。

 だが、最大のネックは送電網の整備だ。モンゴルで発電した電気は中国国内の送電線を使って沿岸部に運び、さらに韓国を経由し、海底ケーブルで九州北部に 送ることを想定している。日本が中国、韓国との関係か悪化しているなか、どうやって、この難関を突破するか。孫社長の勝負どころである。

<再生エネルギー特別措置法成立に奔走>

 孫社長は「再生エネルギー特別措置法」の助産婦であった。東日本大震災から2カ月後の2011年5月14日、東京・赤坂の料亭で、孫社長は菅直人首相 (当時)と密談した。会食は2時間以上に及び、孫社長は「自然エネルギーで盛り上った」と、菅首相と意気投合したことを報道陣に明らかにした。

 菅首相は5月下旬、G8サミットが開催されたフランスで、「2020年までに自然エネルギーの全電力に占める割合を20%にする」、「太陽光パネルを 1,000万戸に設置する」と大きなアドバルーンをぶちあげた。菅首相の発言は、孫社長から吹き込まれた内容をそのまま繰り返したのではないか、と政界で は取り沙汰された。

 孫社長が力を注いだのが、太陽光や風力などで発電した電気を、電力会社が買い取る「再生エネルギー特別措置法」だった。自然エネルギーで共闘を組んだ菅首相は同措置法を置き土産に退陣した。

 法案の成立を受け、ソフトバンクは10月、再生エネ子会社SBエナジーを設立、メガソーラー(大規模太陽光発電所)ビジネスに進出していった。政治に働きかけて、ビジネスをつくり出す手法は「政商」と批判された。

 鳴り物入りで登場した再生エネルギー買い取り制度だが、いまや開店休業の状態だ。買い取り制がスタートした12年7月から13年5月までに認定された発電設備は2,240万キロ・ワットで、このうち実際発電しているのは1割強の300万kWに過ぎない。

メガソーラー事業者は、高い価格で電力会社に電力を売る権利だけを取得し、太陽光パネルの値下がりを待って発電を始めるつもりなのだろう。

 一方、北海道電力は送電網に接続できる容量に限界があるとして、事業者からの売電申請を門前払いした。ソフトバンクの子会社SBエナジーは北海道安平町 など3カ所でメガソーラーの建設を計画していたが、中止を含め見直しに追い込まれた。買い取り制度はスタートから暗礁に乗り上げてしまった。

<狙いは東電の送電網の買収>

 逆風はいつものことで、孫社長には想定内だろう。メガソーラー事業は、電力業界に乗り込む、入場券にすぎないからだ。狙いは、政府が検討している東京電 力の送電網の買収だ。東電が原発事故の巨額の賠償金を捻出するため、発電と送電を分離して、送電網を売却すれば、その金額は5兆円を超えると試算されてい る。ソフトバンクが金融機関や投資ファンドを組めば、買収は可能な金額だ。

 送電網が手にいれば、ビジネスチャンスは、さらに広がる。「アジアスーパークリッド」構想で日本まで引いてくる送電網につなげることができる。

<次々と野望を実現してきた底知れぬパワー>

 孫社長は、高い目標を大々的にぶちあげて、自己暗示をかける。彼の人生をずっと貫いてきたやり方だ。そして、高い目標をやり遂げてきた。

 06年、ソフトバンクはボーダーフォン日本法人(現・ソフトバンクモバイル)を2兆円で買収し携帯電話事業に参入した。この時、孫社長が掲げたのが携帯 電話の「10年戦争」である。まずKDDIを抜き去り、次にNTTドコモとの直接対決に勝ち、10年後にトップに躍り出ると宣言した。通信界のガリバー、 NTTに勝てるとは、誰も思わなかったから、周囲からは「また孫さんのホラ話がはじまった」と受け取られただけだった。

 ところが、目標は10年もかからずに達成した。13年7月に米携帯電話大手スプリント・ネクステルの買収手続きを完了。携帯電話会社として国内首位のNTTドコモを上回って世界3位の規模の売上高になった。

 モンゴルの風力を日本にもってくる。この構想は、今のところ夢物語である。しかし、次々と、高い目標をぶち上げて達成してきた孫正義社長のことだ。アジア送電網をつくる壮大な野望は実現できるかもしれないという予感を抱かせてくれる。

http://www.data-max.co.jp/2013/09/18/post_16455_dm1701_1.html

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